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チャッピー    幸せは谷戸をわたる風にのって
                         立木洋子 / 著

秋の陽が背中を追い越し…(9歳〜12歳)
 
 お先にどーぞ
 いつまでも落ち着きのないチャッピーに「なーに、5〜6歳になればいやでも落ち着く。」といった人がいたっけ…、などと思い出していたのはそろそろ老犬といわれそうな頃だった。8〜9歳になって歩き方がおかしいことに気づく。散歩は好きなのに坂道を嫌がったり、ハイキングの途中ブッシュの中に隠れて出てこないこともあった。以前は結構きつい登山でも何度も先に行ったり、後ろから来る人を見に行ったりと身軽に走り回っていたのに、「もう歩けません、お先にどーぞ。」という感じなのだ。加齢による関節の病気だった。皮肉なことに体の方が先に落ち着いて(?)しまったのだ。
  鼻にタンコブ?
 8月末のある朝、細い鼻の右側に梅干しくらいのコブを見つける。前の晩はなかったので、またどこかにぶつけたに違いないと気にもとめなかった。一日、二日してもひかないので念のため診て頂く。獣医さん、意外にも苦渋の表情。なんと癌らしいと…。長い闘病生活の始まりだった。2種類の癌が鼻腔にできていた。手術後の腫れがひかないうちに何倍も増殖し、制癌剤治療が始まる。効果が見られなければ”余命3ヶ月”の宣告。「タンコブだとおもったのにぇ。」ぬいぐるみのように膨れたチャッピーの鼻を見て思わずつぶやいた。
 
 食べたくないよ〜!
 癌を小さくしてから2度目の手術という方針だった。何種類かの制癌剤治療が行われたが目に見える効果はなかった。それどころか鼻はますます膨れ、眼や脳への転移も覚悟しなければならないと思っていた。人間の場合と同じで、食いしん坊のチャッピーも食欲不振に陥った。それでも、もともと好き嫌いがなかったので2,3日ごとに少し目先を変えただけでなんとか食べ続けることができた。その頃は、スーパーへ行っても自分たちのものよりタラやササミといったチャッピーの食べられそうなものばかりに目がいったものだ。
 めげないよ!鼻以外は元気
 チャッピーの顔を見ただけで誰もが息を呑んだ。細いはずのシェルティーの鼻が…。もしも人間だったら、病名とこの鼻と薬の副作用ですっかりまいってしまうだろう。でも犬は悩まない。体が傾きそうな鼻をかかえていても散歩に行きたいし、今気持ちが悪くても少し良くなれば食べたいのだ。病気を恐れたり悲観的になったりしない。後に何回も繰り返し行われた手術の後も、鼻と口から血を吹きながら食べた。生きるためにはとにかく一生懸命。今、幸せであることに全力を注いでいるのだ。動物のシンプルな生きざまに、ただただ感心していた。

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チャッピー
ー幸せは谷戸をわたる風にのってー

2004年10月10日 発行
著者・発行者/立木洋子

製作・印刷・製本 岡本出版株式会社

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