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幸せは谷戸をわたる風にのって
立木洋子 / 著

| 縁あって 1988年4月のある日、仕事上の先輩S氏から「犬を飼いませんか?」とのお誘い。親戚の方が飼えなくなったとのことだった。犬も見ないで「はい。」とふたつ返事。子どものころからいつも家には犬がいて、家族の喜怒哀楽の思い出も犬なくしては語れない、そんな家庭に育った。結婚した後は一日中留守番をさせるのが可哀想、ましてやマンション住まい、よその犬を横目で見ながら我慢していたのだ。少し前に戸建てに引っ越し、そろそろ…と、いいタイミングだったのかもしれない。 芝生全滅 1歳と少しで我が家にやって来たチャッピーはシェルティーとしては大柄、でも痩せ。声帯を手術していて声が出ない。だから”ワンワン”のつもりが”ヒャウヒャウ”と吠える。レレレのおじさんみたいに足が見えないくらいの早さで狭い庭を走り回り、一週間足らずで芝生も草花も姿を消す。 まだ一週間? 小さな濡れ縁の半分を覆うように、夫が犬小屋を造った。二人の心配をよそに、その日から”ボクの家”と理解した。垣根の外に向かって吠え、はしゃいで散歩に行った。ご飯の催促をし、体を寄せて甘えてきた。「え?まだ一週間…。」チャッピーが家に来てから、もう何ヶ月も経った気がした。あのとき君は”ここの家の犬になろう”って決めたんだね、きっと。健気だね。 チャッピー=お茶っぴー 家に来たときはもう”チャッピー”だった。私たちだったらもっと渋い名前にしただろうなあなどと思ったものだ。ところが日が経つにつれて彼にピッタリと思うようになった。庭木や柵をかすめるように、あまり目まぐるしく動き回るものだから気が付くと目の周りや尖った鼻面から血を流していた。派手な鉤裂きも何回かあった。スキーで外足をとられたときのようにいきなりドテッと横倒しになったりして驚かされた。そそっかしくて、茶色くって、落ち着きのないおちゃらけチャッピーだったのだ。 次のページへ |

| チャッピー ー幸せは谷戸をわたる風にのってー 2004年10月10日 発行 著者・発行者/立木洋子 製作・印刷・製本 岡本出版株式会社 |
