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幸せは谷戸をわたる風にのって
立木洋子 / 著

| 8月の末、さよちゃんと彼が来た。結婚が決まったとの報告。10数年前、あの原っぱで出会った少女が、お嫁さんになる。秋も深まったある日、”近所のおじさん、おばさん”は結婚式にお呼ばれした。夫の祝辞は”二匹”の説明なしでは始められなかった。彼女の愛犬リョウ君もチャッピーもいなくなったけれど、何の欲もない二匹は雲の上を飛び回って私たちにまたひとつ幸せをくれた。 ☆ 台風が南の海を通り過ぎ、空の色が変わった。夏に続いて秋の小谷に行って来た。庭に草花を植えた。なつかしい曲とともに谷戸の家々に石油が届いた。昨年と同じ陽だまりに、ヴィオラやパンジーを植えても、犬のいないただ静かな庭にすぎない。一匹の老犬がいて、ゆっくり時が流れていた。物言わぬはずの犬なのに、なんとたくさんのものを残していったことだろう。爽やかだけど寂しい秋空を見ながら、彼の眼差しを思い出していた。 ☆ 真冬の谷戸で、子どもたちが元気に遊んでいる。身丈が少しずつ大きくなっているのと、去年はまだ”赤ん坊”に近かった子が加わっている以外は変わらない光景だ。私は今も”チャッピーのおばちゃん(おかあさん)”と呼ばれている。子どもの一年は長いし、とっくにいなくなった犬のことをよく忘れないでいてくれるものだ…と嬉しく思っている。こんなに素朴で優しい子どもたちには、本当に幸せになって欲しい。 |
| 立春を過ぎた頃から、ヴィオラやパンジーが急に背伸びを始めた。2月中旬には、沈丁花がほころび始め、雪柳、侘助、桜(早咲き)の蕾も目立ってきた。「また春が来たんだねぇ…。」と写真の中のチャッピーが言った。「ウン、もうすぐ君のいた最後の季節だよ。今年も花たちがケーキみたいに盛り上がって咲くよ、きっと。君がいないことを悲しまず、君がいたから、だから今も幸せでいられるように、心を明るく温かにして生きるよ。」 ☆ 林檎の花が咲いた。昨秋、たくさん枝を落としたのに、空に向かって見事に咲いた。桜や林檎が咲くと晩年のチャッピーを思い出して辛いだろうなと思っていた。昨年と同じようにサクランボが実り、鳥たちがにぎやかに食べに来た。「今日、旅立って行ったんだ…。」としみじみした思いはあったが、私の心は意外にも落ち着いていた。寂しくないとは言えないけれど、少し前とは違って、いつもすぐ近くにチャッピーを感じていた。私たちがどこにいても、何をしていても、一緒にいる気がしていた。1年前、離れていったと思っていたのに、今はいつでもチャッピーがくっついているような気がする。 次のページへ |

| チャッピー ー幸せは谷戸をわたる風にのってー 2004年10月10日 発行 著者・発行者/立木洋子 製作・印刷・製本 岡本出版株式会社 |
