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幸せは谷戸をわたる風にのって
立木洋子 / 著
| 2,3月は、いつまでも風邪が抜けず、スキー旅行もキャンセルしてふさぎこんでいた。そんな時なぜか、わが家に来た頃のチャッピーのことをあれこれ思い出した。晩年のしみじみしたチャッピーではなく、おかしなことや、間抜けなことをしょっちゅうしていた半人(犬)前のチャッピーだ。絡んだ毛糸玉の糸口を見つけたみたいに、いくらでも果てしなく思い出した。当時の写真を見たくなった。色あせた写真の中のチャッピーは薄っぺらな体に尖った鼻、幼い顔つきをしていた。楽しかった思い出は気持ちを軽くし、次々と文字に変わっていった。書き進むうちにチャッピーの一生が、自然と春夏秋冬にあてはめられていった。あどけない若犬が春の光の中にいた。夏の陽をいっぱい浴びたしなやかな成犬。やがて気がつくと秋の陽が背中を追い越して、長く優しい冬が来た。大病を乗り越えた老犬は犬としての到達点に近づく…。初めて会った子どもにも、犬嫌いの老人にも心を許した。西陽に毛を輝かせて道に長い影を引いた。それはあたかも悔いのない一生を、じっと振り返っているようだった。 |

| 途中から楽しいだけじゃなくなって、終わりの方はやっぱり心が潤み、書くペースも落ちてしまった。それでも彼の一生を、私なりに静かに考えることができたように思う。チャッピーの生きた16年余りの年月は人生に縮図のようでもあり、逆に、無欲で真っすぐな犬らしい一生だったと思う。人も動物もそれぞれが一生懸命生きているのだとあらためて感じた。今日も鶯や小綬鶏が鳴いている。宅地開発が目前に迫り、明日をも知れない身なのに。駅に住む鳩たち、狭い庭に毎年生まれる七節、コンクリートのわずかな隙間に咲くタンポポ、なんて健気なんだろう。人ももう少し謙虚に生きたらいいのに。限られた世界でともに命を分けあっているにだから。「また雑木山がひとつ消える。あの散歩道にもう泥はないよ。君の仲間もいなくなって、時代は変わっていくんだね。好きだよ、楽しかったよ…。」 〜駆け足で追い抜いていったチャッピーへ。 次のページへ |

| チャッピー ー幸せは谷戸をわたる風にのってー 2004年10月10日 発行 著者・発行者/立木洋子 製作・印刷・製本 岡本出版株式会社 |
