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チャッピー    幸せは谷戸をわたる風にのって
                         立木洋子 / 著

若葉まぶしい日に…
 どこに行って来たのー?
 2002年の秋までは、少しずつ弱りながらもそれなりに元気だった。年が明けると同時に度々発作が起きるようになって、今度こそは覚悟しなければならないと思った。いきなりバーンと倒れ、心臓マッサージでようやく息を吹き返す。これはかなりのダメージで、(三途の)川のほとりから引き返してきた後も昏々と眠り続けた。倒れてもすぐに意識を取りもどす、やや軽めのタイプもあった。排泄の後や長めに歩いた後は、風船の空気が抜けるように、(貧血のように)ヘナヘナ…と、これは頻繁に起こった。当時のカレンダーは、発作を@、A、Bと分類した記録がびっしりと書き込まれている。
 チャッピーに言ったこと
 いつまでもいて欲しいけど、生きているのが辛くなったときはバイバイしてもいいよ。おいしいご飯が食べられなくなって、楽しい散歩ができなくなって、痛くて苦しい日が来たら、悲しいけどバイバイしてもいいよ。でもね、二人がそろっている時にしてね。15年前の今日、Sさん家に迎えに行った時も二人だったでしょう。助手席の私の膝で大暴れして、「どこに行くの?」と心配していたね。1988.4.30(土)の午後でした。だからね、いつかチャッピーを送るのも二人でしたいの。
 …この日は初めてチャッピーが起きようとしなかった。朝はいつも先に起きて、「トイレに行きたい。」とウロウロするのに…。夫に抱かれて階下に降り、お昼まで弱い息が続いた。12時に水分(牛乳水ゼリー)をとり、14時にようやく立ち上がって少し元気になった。
 バイバーイ!
 あの日から三日目、私たち二人に見送られて旅立って行った。「ありがとう、私の願いを聞いてくれたんだね。」今よく言われているQOL(生活の質)、これはもうたいしたものだ。長い間病みながらも、それなりの人(犬)生を楽しんだし、寝込んだのはあの半日だけ。最後まで自分で食べ、歩いて用を足し、夫に抱かれて寝床に行って、「ウッ、胸が…。」で天国へ行っちゃった。とは言え目を見開き、口を大きくカッカッと開いて、やがて静かになった瞬間は激しい死の表情そのものだった。生まれて来るのと同じくらいの大仕事だったに違いない。瞼と口唇をそおっとなで下ろし、「ちゃんと見届けてやるんだ…。」などといいながら鉛筆を走らせていた。
 しなやかに走る
 犬用ベッドに移した後はとても穏やかな表情になり、翌朝はさらに手足も伸びてまるで楽しそうに走っているみたいだった。しなやかな若い体を取り戻して、5月の空を好きに飛び回っていたのかもしれない。小さな子どもたちが花をくれた。足にリボンを結んでくれた人がいた。チャッピーの体にポタポタ涙が落ちた。赤い林檎をひとつ抱えて、本当に空に昇って行った。 
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チャッピー
ー幸せは谷戸をわたる風にのってー

2004年10月10日 発行
著者・発行者/立木洋子

製作・印刷・製本 岡本出版株式会社

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