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幸せは谷戸をわたる風にのって
立木洋子 / 著
| 猫パンチ 癌は克服したものの、心臓病、白内障、難聴、どうやら嗅覚も怪しくなってきた。若く元気な犬もかわいいけれど、頑張って生きてきた老犬への思いはそれ以上のものがある。ただその老いた姿を見ているだけでいとおしさで胸がいっぱいになってしまうのだ。犬を見るなり逃げていた近所の猫も、様子を伺い少しずつ近づいて来た。ちょっと離れた所で毛づくろいしている。あんまりゆったり落ち着いているチャッピーに戸惑ったのか増長したのか、いきなり立ち上がってパンチをくれていった。見えない、聴こえないチャッピーはなにが起きたのか分からず、ただ呆然としていた。 暑いよー! 3月になると、傘が必要?、寒い間は日向を捜しては横になっていたチャッピーだが、ある日突然、ハアハアと苦しそうになる。もともと外犬なので日向ぼっこは大好き、でも”暖かい”と”暑い”の境界線が微妙。急に陽射しが強くなる春先、日向に居過ぎると具合が悪くなってしまうのだ。高めの場所に大きい傘を取り付けて、直射を避ければしばらくはオーケー。伏せの姿勢もままならなくなった頃、少し荒っぽく背中をさするとハーッハーッと気持ち良さそうに笑っていたっけ…。 |

| 牛乳水ゼリー 2003年の年明けあたりから、水を欲しがらなくなった。薄めた牛乳をやってもほんの少ししか飲まない。それでも依然食欲は旺盛で、好き嫌いなくよく食べた。誰もいない台所で、宙を見据えるように必死にお手(ちょうだい)をする姿は、今思い出しても悲しい。目はほとんど見えないし、お手なんか出来るような体力ないのに…。でも、その時思った。「ん?水は嫌でも固形なら食べるかもしれない…。」薄めた牛乳を寒天で固めてみた。さいの目に切って食器に入れると、おいしそうに全部食べた。「これで大丈夫。」その後はトマトやバナナミルクも与えるようになった。水分のことは解決したものの、大好きな林檎は銀杏切りから擦りおろしに代わった。鼻が効かなくなっても、サクサクという食感がなくてもやっぱり好きな物は嬉しそうによく食べた。 眠ってないよ〜! 「よく寝るねぇ。…」一日の大部分を寝て過ごすチャッピーを見ては、そう言っていた。「眠ってないよね〜!」と夫が言った。ずっと聞き流していた。そういえば目だけキョロキョロしている。動物って利口だと思った。体中老化して、心臓もだいぶ弱ってきた。そんな自分のことをよーくわかっていて無駄な動きをしないのだ。元気な頃は吠えたり跳びはねたり、行ったり来たり目まぐるしく動き回っていたのに…。ほとんど見えないであろう目で私たちを追いながら気持ちだけ走っていたのかもしれない。 次のページへ |


| チャッピー ー幸せは谷戸をわたる風にのってー 2004年10月10日 発行 著者・発行者/立木洋子 製作・印刷・製本 岡本出版株式会社 |
