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幸せは谷戸をわたる風にのって
立木洋子 / 著

| 長生きしようねぇ… 繰り返し行われた手術や投薬に耐え、奇跡的に大病を乗り越えたとき、チャッピーは13歳の老犬になっていた。あちこち痛めた体は傾き、すっかり白くなった顔は曲がって口唇はずれていた。それでも本犬は人間のように落胆したり、無気力になることもなく、よく食べ、散歩をねだり、時には子犬のようにはしゃいだ。日向を捜しては横たわる姿を見るにつけ、いとおしさが胸を熱くした。「遠慮しないで長生きするんだよ、そばにいるからね。」といつも言っていた。仕事を止め、家にいることが多くなった私は、残された日々を静かに見守ってやりたいと思った。 いってらっしゃーい! 夫の出勤は7時半。それに合わせてチャッピーも散歩に行くようになった。「いってくるよ。」と車に乗ると同時に大騒ぎ。行くなと言っているのかよくわからないが怒りまくる。気分だけは子犬のつもりか、老骨に鞭打って猛然と追いかけようとするのだ。リードで吊り上げ気味にしたところで痛め切った関節には随分負担で、しばらく追いかけたところであきらめた後は、とぼとぼと体を引きずるようにして帰って来るのだ。これは性懲りもなくしばらく続いた。足が心配だったが、彼の楽しみを取り上げてしまうような気がしてほどほどにつき合っていた。 |
| 教えてあげる! 1月中旬から立春ごろまでは寒さの底、谷戸の道には陽が射す時間も少ない。そんな灰色の季節のなかにもこどもたちの遊ぶ声がこだまして、なんだか心が温かくなるのを感じる。歳をとるにつれて子どもが好きになったチャッピーは、自分の方から遊びの輪に入って行った。「ネエ、なにしてるの〜?」道端や玄関先におもちゃやゲームを広げていた子どもたち、まるで友達を迎え入れるように、「チャッピー、ここを押すとネ、…。」なんて新しいおもちゃの遊び方を教えてたっけ…。チャッピーのほうもすっかり仲間のつもりか、肩を並べて(?)居座っていた。 高校生だね! 素早い身のこなしが出来なくなってから、犬が苦手な子どもたちとも仲良くなった。予測のつかない動きをしないので、安心して近寄り、なでることができたから…。チャッピーのほうも気が練れてきたのか、多少乱暴な扱いを受けても我慢しているふうだった。「ネエ、チャッピーは何歳?」「15歳。」「ウワー、すごい!」…、「「ネエ、チャッピーは何歳?」「16歳。」「エ〜?、じゃあ高校生だね!」などと随分歳のことを話したっけ。「でもね、犬の16歳は爺じなんだよ。」、最後にこう言ってもよくわからなかったみたい。 次のページへ |

| チャッピー ー幸せは谷戸をわたる風にのってー 2004年10月10日 発行 著者・発行者/立木洋子 製作・印刷・製本 岡本出版株式会社 |
